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「ありがとうございました」
自宅付近で降ろしてもらい、呆気なく私は車を降りる。
「本当にここでいいの?家、近い?自宅前まで行くよ」
「いいえ。大丈夫です。家を知られたら、後々怖いので」
「ええ……まだ、信用されてねぇなぁ……」
吾妻さんは苦笑いを浮かべて、私に手を振った。
「じゃあね。みさおさんに幸あれ」
私はもう一度、お礼を言って頭を下げる。
静かに扉を閉めると、車は直ぐに発進した。
方向指示器が点滅したかと思うと、テールランプが光り、曲がり角に車が消える。
暗闇に一人取り残された私は、そこから動こうとは、しばらく思えなかった。



