羊かぶり☆ベイベー




「泣かないで」



涙をわざと溢れさせたいのか、嫌味かと思わせる程、優しい声で吾妻さんが囁く。

そして、彼の左手が、私の涙を拭った。



「なん、で……駄目なんですか……。お店で、もっと、お話しましょう、よ……。お店で会ったら、どうするんですか? 気まずいですよ、ぜっ、たい……。私、店長のお店、大好きだから、絶対、行くの、止めませんから、ね……」



意図していなくても、徐々に、嗚咽が激しくなる。



「困ったな」



ほら、恩人を困らせてる。

分かっているけど、止まらない。

今まで、去る者は追わない性格だと思っていたけれど、この人だけは引き留めたい。

じゃないと、私は明日から石に成り果ててしまうかもしれないから。

鞄からハンカチを取り出し、目を押さえる。



「……っ、ごめんなさい。止まらなくて……」

「ごめんね、泣かせてちゃって。ねぇ、みさおさん」

「はい……」



顔も上げずに返事をする私に、困っている吾妻さんの声が聞こえる。



「俺の願望があるんだけど、聞いてくれる?」

「がん、ぼう……?」

「そう。みさおさんにしか、叶えられないこと。でも、このお願いで一番大事なのは、みさおさんの気持ち。自分を抑え込んでまで、叶えてもらっても、俺は少しも嬉しくないから」



鼻、口元にハンカチを当てて、目線をちゃんと吾妻さんに合わせる。

吾妻さんのお願いなら、ちゃんと聞こう。

私にしか出来ないことなら、尚更。

必ず、叶えてあげたい。

恩返しが出来るのなら。



「その、お願いって、何ですか」