「初めて壮の店で会ったとき、見るからに泣いた後っぽくて、目を腫らしてたのに、お酒飲んだら、パアッと明るくなって、俺を信用してなくて怖い顔したり……。表情が次々に変わるのが面白くて。可愛い人だな、って」
「そ、そんなことまで、覚えてるんですか」
「もちろん。俺にとっては、衝撃の日だったから。所謂、一目惚れだ」
今日の私に至るまでの、全ての始まり。
元彼の後輩の子とのキスシーンを目撃した日。
ボロボロになる程、泣き腫らしていた。
今思えば、何がそれ程までに悲しかったのだろう。
そして、もし、店長のお店に寄ることもなく、自宅に直帰していたなら、たった今、今日はどうなっていたのだろう。
今頃、まだ、ウジウジと人にしか合わせられない、不甲斐ない自分を嫌になっていたのだろうか。
今、目の前で愛おしそうに私を見る吾妻さんに、出会すこともなかったのだろう。
「ひ、一目惚れ、だなんて……。私、最初、あんなに失礼なことを言い散らかしたのに」
「本当にね。でも、みさおさんだから、それすらも嬉しかったのかも」
「ごめんなさい。それは、ちょっと気持ち悪いです。そういう性癖……?」
「違うって! みさおさん、絶対、他の人には言わなさそうだし」
「言う訳ないですよ。こんな失礼なこと」
「だからだよ。その距離を許してくれるのが、俺だけなのかなって、思って、嬉しかった。あと──」
少しためて、呟くように言った。
「惚れた弱み、だよね」
絶妙な角度で差し込む街灯の灯りが、吾妻さんの頬を照らしている。
紅く染まっている吾妻さんが、嘘を吐く人だとは思えなくて。
語る口調が、温かさを帯びていて、一度も逸らされることのない視線は、私だけに向けられている。
その全てに、言われたことが現実味を帯びてくる。
私もつられて、熱くなってきた。



