羊かぶり☆ベイベー




「もしかして、吾妻さん、体調悪いですか?」

「え? ううん。全く」

「そう、ですか」



なら、どうして動き出さないのか、とは思ってはいるが、どうも口に出せない。

だって、車が動き出したら、もう帰らなければならなくなる。

──もう少しだけ……。

私の良くない欲が漏れ出している。

だけど、それを覚られないように、静かに黙るしかない。

黙っていると、吾妻さんがハンドルに寄り掛かった。

そして、こちらを覗くように、少し顔を向ける。

目が合った瞬間、また胸が高鳴った。

その時に、思わず声が漏れてしまう。



「な、なん──」

「なんか……帰り難くて」



息が止まるかと思った。

吾妻さんも、私と同じことを考えていたなんて。

嬉しくて、息が上がりそうな程に、心臓がドキドキしている。

しかし、ここはあくまでも平静を装い、女優になりきる。



「……もう少し、話しましょうか」

「いい?」

「はい」

「やった」



吾妻さんは、シートに正しく座り直し、無邪気に笑った。

そんな風に嬉しそうにされると、むず痒い。



「じゃあ……いきなりなんだけど、ずっと気になってたこと。あれから、あの彼氏さんとは何も無かった? 大丈夫だった? 反感買ったりしてない?」

「何の問題もありません。ただ2人で話す機会があって……。彼の方から、ちゃんと教えてくれました。私のことをどう思っていたか、とか」

「そう」

「はい。ちゃんと向こうも分かってくれて、関係を蟠りなく、きっちりと清算できました」



私の晴れ晴れとした回答の様子に、吾妻さんは目を見開く。



「そんなに驚いて、どうしたんですか?」

「いや、なんか、憑き物が落ちたように表情が明るくなったから……何はともあれ、おめでとう」



控え目に拍手をする吾妻さんの祝福を、有り難く受け取る。



「全て、吾妻さんのお陰様です」

「……とんでもない」

「今日のお酒も、楽しく味わえました。御馳走様でした」

「いえいえ。そういえば、あのカクテル、どういう意味だったの。俺、聞いてないんだけど」