とりあえず、黙る。

彼女からは話し掛けてこられたが、私としては、何も話すことなんて無い。

だって、彼女の言う「先輩」こと、ユウくんとは既に赤の他人なのだから。

それに、彼女にはするべき仕事だってある筈なのに。

私なんかと話している場合ではない。

私の前から動こうとしない彼女には、そもそも彼と関係性を作りたいであれば、もっと他にするべきことがある筈だ。



「一丁前に、フッたらしいですね」



威圧的に言ってくる彼女は、怖いというよりも、好きになれない。

私が弱いと分かり切っているという、彼女の先入観からくるものなのだろう。

内心は確かに、また怖じ気づいていたけれど。

私だって、誰かの言いなりになるだけのお人形なんかじゃない。



「フッたなんて……話し合っただけです。それに、あなただって、旅行の日、私に言ったじゃないですか『告白された時点で、断るべきだった』って。むしろ、これが、あなたが望んでいた形なんでしょう?」

「そんなこと言いましたっけ。覚えてないので、よく分からないですけど。言い訳ですか? 」

「私は、彼とはもう関係ありませんので、これ以上は……」

「無理です。私が納得していないので」

「私にどうしてほしいんですか……?」



問えば、彼女が詰まる。

彼女が何を言わんとしているのかが、よく伝わってこない。

だって、私が別れた今、彼はフリーだから、むしろ彼女にとっての好機だ。

今まで通り、彼を攻めるべきだ。



「話す相手、間違えてますよ」



真っ直ぐ彼女を見据えて、ちゃんと言った。

すると、彼女の顔はみるみる内に赤くなる。



「偉そうに……」



かろうじて聞こえる声量で呟く。

そして、次の瞬間、手を振り上げた。

私の身体も衝撃に備えて、反射的に目を瞑る。