『終わってないよ』

『同じ男として、自分が彼の立場なら、そんな歯切れの悪い終わり方はしない』

吾妻さんから警告を受けたが、あれからというものユウくんとは、特に関わることもなかった。

店長のお店でひと悶着あってから、丸々1週間が経つ。

それでも、何も無い。

もともと離れられなくなる程、大好きだとか執着など無かったから、然程の感情も湧いてこない。

ただ、彼とどうすれば上手くやっていけるか、私が素直になれるのか、そんなことに悩まされることは無くなった。

素直、ありのままの姿について考えている時点で、それは自分の素の姿ではなく取り繕おうとしていることには違いなかった。

だって、吾妻さんの前でなら、何も考えなくたって、私はありのままだ。

はじめから考えてすることじゃなかったのだと、今になって、じんわりと苦みの様に染みてくる。

でも、無駄だったとは、やっぱり思いたくない。

ほとんど恋愛未経験の私には、勉強になったのだと、そう思おう。

日常もこうして、変わりなく進んでいく。

だから、私もちゃんと流れに沿うようにして生活を、仕事をする。

現在の時刻は、午前10時半。

入金業務の為、銀行へ行く段取りをしていた。



「すみません。私、銀行へ振り込み行ってきます。ついでに備品、急ぎの物とかはありませんか? 買ってきますよ」

「うん。足りてるから、大丈夫。気を付けて行ってきてね」



先輩に一声かけて、社用車のキーを引き出しから取り出し、オフィスを出る。

玄関口まで来ると、自動ドア越しに晴天が見えた。

空の明るい青に、少し気分が高揚する。

普段、屋内での業務が多い分、月に1回、外に出られる機会が嬉しいだけかもしれないけれど。

あと少しで、自動ドアというところで、後方から響いてくる音に気付く。