ユウくんという、イマイチはっきりしなかった元彼のことも、この会話も笑って、無かったことにしてしまおうと思ったのに。

それなのに、吾妻さんは意地の悪いことを言う。



「何、言ってるんですか。彼だって、私とは関わりたくない、って思ってますよ。多分」

「いや、まだだよ。あれだけ嫉妬心丸出しにして、中途半端に逃げ出して。まだ何か言ってきそうな気がするな」

「なんで、そんな」

「同じ男として、自分が彼の立場なら、そんな歯切れの悪い終わり方はしない」



吾妻さんの、雰囲気の緩い姿の裏側、真剣に考えてくれる、鋭い頼もしい姿。

凛々しいところも、初めは驚いたり、笑ったりしてしまっていたが、今では見惚れてしまう。

ぼうっと見る私に、吾妻さんの表情が変わった。

また頬を紅くして、今度はおどついている。

せっかく凛々しく、格好良いと内心だけで、褒めてあげていたというのに。



「ちょっと、あんまり見つめないでよ? そんなに俺、男前? 惚れた?」

「本当に、そっ、そういう冗談止めてください」

「……あーあ、俺にしとけば良いのに」



思わず、呼吸の仕方を忘れた。

冗談に決まっているのに、動揺してしまう。

これは、いつもの冗談?

それにしては、いつもと台詞が違う気がする。

私が深く考え過ぎている?

どんな答であれ、せっかく得た友人という、吾妻さんと近く親しく居られるポジションを守らなければ。

今まで、必死に堪えてきたのだから、今、堪え切れない訳は無い。

関係を崩すことのないよう、いつも冗談を言い合うテンションを、意地でも思い出す。



「う、自惚れないでくださいね」



それに対し、吾妻さんは「手厳しいなぁ」と笑った。