吾妻さんも、ユウくんも睨み合った体勢のままで動かない。

今はまだ言い合いで済んでいるが、これ以上は本当の掴み合いの喧嘩になってしまいそうだ。

店長にだって、迷惑をかけてしまう。

空気もぴりついていて、私は情けないことに怯えている。

それでも、何かあってからでは遅い。

その一心で、声を絞り出す。



「ふ、2人とも……」



か細い私の声でも、2人の耳には届いたらしく、同時に私の方を見た。

どちらとも目が合い、とりあえず2人が正気を保って居られる状態であることを確認する。

そして、安堵したのも束の間。

ユウくんが立ち上がった。



「帰ります」



ハンガーに掛けてあったスーツのジャケットを取り、荷物をまとめ出す。



「ちょ、ユウく──」

「じゃあね」



話は、まだ終わってない。

私も立ち上がり、呼び止めたが、たった一言だけ言い残し、お店を出ていってしまった。

扉が音を立てて閉まり、彼の姿が消える。

途端に力が抜け、崩れるように椅子に座り込んだ。



「みさおさん。本当に大変だったね」



眉を下げながら言う吾妻さんに労われ、怯えて凍えていた体が解れていく。

恐ろしい程の迫力を持った吾妻さんは、もうどこにも居ない。



「あ……」

「ん?」

「よかっ、良かったぁ……いつもの、あづ、まさん、だ……」

「え、何?!」

「あ、あんな大きな声で、怒ってる吾妻さん、初めて見て、び、びっくりしちゃって……」

「あ、ああ……」



突然、嗚咽を漏らす私を見て、気まずそうに吾妻さんは頬を掻いた。

そして、私の正面に座り直すと、私の視線と高さを合わせるようにして覗き込む。



「ごめん。驚かせて」

「いえ……」

「でも、どうしても許せなくて。あの人、みさおさんが悩んで、何か動いてるのを、分かってる風に言いながら……。言い方が悪いけど、それすらも「無駄」だって言われてるようにしか、聞こえなかった。それが純粋に、許せなかったし、腹が立って」