羊かぶり☆ベイベー




駆け足で立ち去っていたのが、いつの間にか全力で走っていた。

そして、ようやく私の足が止まったのは、自身の通勤車の前。

ああ、これは悪夢だ。

そう思いたかった。

そう思いたかっただけなのに。

何故だか、今更になって動悸がする。

明らかに平常ではない私の心臓と、内心を落ち着けようと努めた。

そんなことをしている間にも、背後からは足音が聞こえてきた。

その音は、少し急いでいる様に聞こえるから、嫌になる。

絶対に振り返らない。

直ぐに、運転席の扉に手をかける。

そんな私の手を掴まれた。

私が望んだわけでもないというのに、身体が強張ってしまって、その場から動けなくなる。



『なぁ……』



ほんの少し前まで好きだと思えていた、直ぐ後ろにあるこの声も、今はもう聞き難い。

そう、その先も。