駆け足で立ち去っていたのが、いつの間にか全力で走っていた。
そして、ようやく私の足が止まったのは、自身の通勤車の前。
ああ、これは悪夢だ。
そう思いたかった。
そう思いたかっただけなのに。
何故だか、今更になって動悸がする。
明らかに平常ではない私の心臓と、内心を落ち着けようと努めた。
そんなことをしている間にも、背後からは足音が聞こえてきた。
その音は、少し急いでいる様に聞こえるから、嫌になる。
絶対に振り返らない。
直ぐに、運転席の扉に手をかける。
そんな私の手を掴まれた。
私が望んだわけでもないというのに、身体が強張ってしまって、その場から動けなくなる。
『なぁ……』
ほんの少し前まで好きだと思えていた、直ぐ後ろにあるこの声も、今はもう聞き難い。
そう、その先も。



