「俺なら自分なんかを思って、こんなに悩んでくれる女性に、これ以上、不安な想いはさせたくない。愛想を尽かされたら嫌だし。それどころか……」



勿体振って、言葉を止める吾妻さんの瞳は、熱を帯びていた。

テーブル越しの距離でも、伝わる熱をもった空気に、私の胸の内をジワジワと焼かれている様だ。

吾妻さんに想われている錯覚を起こす。

駄目、勘違い、自惚れちゃいけない。

吾妻さんの瞳を見ていると、熱が全身に回ってしまいかねないので、目を伏せた。

私が目を伏せたのと同じくらいに、吾妻さんは再び声を発する。



「気に入られたくて、もっと必死になりますけどね。俺なら」



私のことじゃない。

例え話だと、分かっているけれど。

だけど。

吾妻さんの慰めは、私の心をぎゅっと掴んで、熱いものが込み上げてくる。

「ちゃんと頑張ってたじゃん」といつもの吾妻さんらしく、温かく軽率に、私を褒めてくれる。

私には今も、そう聞こえてきた。

幻聴に違いない、それを一生懸命に受け止める。

私には、勿体無いくらいの計らいをしてもらって、胸がいっぱいだ。

もう、いっぱいで、これ以上、私の中には収めきれない。

目が合わないよう、こっそり視線を上げる。

吾妻さんはまだ、ユウくんに向かっていた。

──また、あの熱い瞳に当てられたら……。

溢れそうなものを堪えていると、吾妻さんはそっと息を吸った。



「彼女は、繁田さん、あなたの為に必死だったんですよ」



吾妻さんの言葉で、2人の視線がこちらに集まる。

この時点で、私は涙くんでしまっていた。

その涙の意味の捉え方は、それぞれなのだろう。

ユウくんはぎょっとして、目を見開いた。

吾妻さんは、私の気持ちを汲んでか、苦しそうに微笑む。

イエスと答えるのは簡単なのに、ノーと答えるには、どうしてこうも精神を消耗するのか。

これから苦労しながら、私が言うことを、この場で吾妻さんだけが理解してくれている。

だから、吾妻さんはそんな風に、微笑むんだ。