羊かぶり☆ベイベー




沈黙で吾妻さんに話す隙を作ってしまうと、また突拍子も無いことを言い出すかもしれない。

それは、流石に堪らない。

一旦、沈黙を回避する為の、何か策を練る私の目についたのは、吾妻さんが持って来た白いお皿。

私はそのお皿を、そっと指差した。



「サラダ、食べますか?」

「俺も貰っていいの?」

「はい」

「ありがとう。じゃあ、戴こうかな」



先程から私は、料理を盛り付けてしかいない。

人の心を探ろうとばかりしているが為に、恐らく普段は使ったこともない脳の一部に、血と神経が全て集まっているのかもしれない。

だから、それ以外では、単純な動きしか脳が身体に指令を送れないのだと思う。

吾妻さんがテーブル上の様子を、然り気無く観察すると言った。



「ここの料理、旨くないですか? 特に鉄板焼き! どうでしたか」



私に問い掛けられているとかと思い、一瞬、手を止める。

顔を上げると、吾妻さんはユウくんの空になった鉄板皿を見ていたので、特に何と反応するでもなく、再び手を動かした。



「ああ……はい」



なんとも素っ気ない返事を返す。

苦手視しているのが、隠しきれていない。

2つ返事では答えられない筈の、感想を聞かれているのに。

あまりにも子どもっぽい彼に、半分呆れてしまう。

社交辞令だけの取り繕ってばかりの人も、どうかと思うが、そのバランスを取ろうとしない人も、なかなか端から見ていると、複雑な気持ちがしてくる。



「みさおさん。やっと食べてくれたけど、どう? お口に合ったかな」



次に呼び掛けられ、瞬時に顔を上げる。

犬もご主人様に名前を呼んでもらえたら、こんな気持ちになるのかな。

即座に反応出来たことで、自分自身、自覚をした。

吾妻さんに話し掛けてもらえることを、待ち侘びてたんだ、私。



「あ……あの」



ほら、胸が高鳴ってる、嬉しくて。