沈黙で吾妻さんに話す隙を作ってしまうと、また突拍子も無いことを言い出すかもしれない。
それは、流石に堪らない。
一旦、沈黙を回避する為の、何か策を練る私の目についたのは、吾妻さんが持って来た白いお皿。
私はそのお皿を、そっと指差した。
「サラダ、食べますか?」
「俺も貰っていいの?」
「はい」
「ありがとう。じゃあ、戴こうかな」
先程から私は、料理を盛り付けてしかいない。
人の心を探ろうとばかりしているが為に、恐らく普段は使ったこともない脳の一部に、血と神経が全て集まっているのかもしれない。
だから、それ以外では、単純な動きしか脳が身体に指令を送れないのだと思う。
吾妻さんがテーブル上の様子を、然り気無く観察すると言った。
「ここの料理、旨くないですか? 特に鉄板焼き! どうでしたか」
私に問い掛けられているとかと思い、一瞬、手を止める。
顔を上げると、吾妻さんはユウくんの空になった鉄板皿を見ていたので、特に何と反応するでもなく、再び手を動かした。
「ああ……はい」
なんとも素っ気ない返事を返す。
苦手視しているのが、隠しきれていない。
2つ返事では答えられない筈の、感想を聞かれているのに。
あまりにも子どもっぽい彼に、半分呆れてしまう。
社交辞令だけの取り繕ってばかりの人も、どうかと思うが、そのバランスを取ろうとしない人も、なかなか端から見ていると、複雑な気持ちがしてくる。
「みさおさん。やっと食べてくれたけど、どう? お口に合ったかな」
次に呼び掛けられ、瞬時に顔を上げる。
犬もご主人様に名前を呼んでもらえたら、こんな気持ちになるのかな。
即座に反応出来たことで、自分自身、自覚をした。
吾妻さんに話し掛けてもらえることを、待ち侘びてたんだ、私。
「あ……あの」
ほら、胸が高鳴ってる、嬉しくて。



