見上げると、またそこに吾妻さんが立って居た。
その手には飲み物のグラスと、私たちと同じ取り分け皿を持っている。
「……どうされたんですか?」
「俺も交ぜてもらって良いですか?」
聞き慣れない敬語もそうだが、それよりも突然の申し出に少し動揺してしまった。
「わ、私は構いませんけど……」
ユウくんは──。
恐る恐る、ユウくんの様子を確認した。
案の定、不愉快そうにそっぽを向いている。
敵対心を丸出しにする彼に対して、忍びない気持ちになってくる。
私の気持ちは、もう冷め切ってしまっているし。
彼が私のことをどう思っているのか、その真相は未だ隠されたままで、話そうとはしてくれないし。
ユウくんが吾妻さんへ、返事をしようとしないので私が内心、冷や冷やしてしまう。
すると、ユウくんが顔を背けている隙に、吾妻さんが私に微笑み、視線で合図する。
まるで「助けに来た」とでも言われている気分だ。
王子様が来てくれたのかと、錯覚してしまいたくなる程。
服装もいつもなら、このお店に来たと同時に着崩して楽な格好をするのに、今日ばかりは珍しく、かっちりとフォーマルな装いを保っている。
王子様に見えたのは、そのせいかもしれない。
私が首を傾げていると、吾妻さんはユウくんからの返事も待たずに、席に座ってしまった。
それも、ユウくんの隣に、ちゃっかりと。
「失礼します。無理を言って、お誘いしてしまい、すみませんでした。お詫びに、今日は俺が出しますので、ご心配なく」
それを言う吾妻さんの顔は、いつもの人懐っこい笑顔ではなく、私が落ち着かないような作り物の笑顔だ。
吾妻さんまで、いつもと様子が違う。
そう思った途端、不意に以前、社員旅行の時、部屋で私の代わりに怒ってくれた吾妻さんの姿を思い出した。
──あ、れ……。これって結構、危険な状況なんじゃ……。
思わず、冷や汗が滴る。



