ナイフが貫通した時、妙に冷静な自分が降りてきた。
──これ以上……引き延ばしちゃいけない。
「何となく」の中に、いつまでも収まっていちゃ、いけない。
好きじゃないのなら、無理矢理そこに収まって、納得している場合じゃないのよ、私。
私の分の豚肉を皿へと取り分け、鉄板の方をユウくんの前に置く。
彼は、それを黙って頬張った。
私も口に運ぶ。
弾力のある食感と、濃いソースが美味しさのあまり、脳を興奮させる。
いつもならば、この興奮をいち早く店長に伝えたくて、叫んでしまうところだ。
しかし、今はどうにも体が強張って、静かに食べるしかなかった。
私の前に座る彼は、何も言わず、ただ黙々と咀嚼することに集中している。
「美味しいね」の一言くらい交わして、食事を楽しみたいが、それも躊躇してしまう雰囲気だ。
楽しいとは、やはり言い難い。
普段から共通の話題が無かった為、今となっては、気まずささえも当たり前になっている。
共通のことが、ほぼ無いに等しい私たちは、どうして付き合うことになったのだったか。
彼との始まりは、どうだった?
会社の懇親会で、大して関わりも無い彼が突然、私に告白をしたのが始まりだ。
『気になってて……俺と付き合ってもらえない?』
何故、私なのだろう。
当時、アルコールの入った頭では、そうは思わなかった。
経費を使用した際の申請に来る姿を、たまに見掛けることはあったけれど、それ以上の絡みは無かった。
今思えば、何故、私も「はい」なんて言ってしまったのか。
お酒の力とは、全く怖い。
考えれば考える程、熱が冷めていく。
つい最近まで、あれ程、少しでも歩み寄れたらと奮闘していた私だったのに。
妙に気持ちが、落ち着き切っていた。
箸を静かに置く。
変に気持ちの起伏が現れることもなく、今になって浮かんできた、たった1つの疑問が今になって、すんなりと口に出来た。
「どうして、私だったの……?」



