羊かぶり☆ベイベー




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約5時間前──

仕事も終わり、帰りの身仕度も終えた私は、久しく定時で帰れることに内心、浮き足立っていた。

帰ったら、何をしようか。

最近、付き合い始めた彼は今頃、何をしているだろうか。

夜ご飯に誘ってしまっても、迷惑ではないだろうか。

階段を下る足が、自然と弾む。

彼と連絡をとろうと鞄から、私の手はスマートフォンを取り出す。

そのときだった。

階段の踊り場に、壁に向かっている愛しい人の後ろ姿を見つけた。



『あ、ユウくん──



今よくよく思えば、声をかける前に、壁に向かって何をしているのか、その事を疑問に思うべきだった。

よく見れば、彼と壁の間には、小柄な女子社員がいる。

見てはいけないものを見てしまい、しばらく身動きがとれなかった。

しかし、自分自身でも不思議に思ったのは「悔しい」「悲しい」などという感情が出てこなかったこと。

その代わりと言ってはなんだけど、自身も知らないうちに、気持ちが声となって漏れ出た。



『……そりゃ、そうだ』