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「ご無沙汰しております」



店長は、浅くお辞儀をして迎えてくれた。

久しぶりにやって来た、店長のお店。

相変わらず、表情のレパートリーが少ない店長だが、お変わりないようで安心した。

吾妻さんは相変わらず、ノリの軽い挨拶をした後、自らお馴染みのカウンターへ歩いていく。

その際に、店長へ何か耳打ちをした。

すると、店長は私の後ろに、もう1人見知らぬ人物が居ることを確認すると、何かを察した顔をする。



「テーブル席へご案内します。こちらへどうぞ」



案内され、向かい合って席につく。



「何にしますか?」

「あ、えーっと……」

「今日も『おまかせ』で?」

「いえ。今日は運転して帰るので、アルコールは、ちょっと」

「そうですか……」



私が答えると、店長の表情がやや変化した。

それは初見の人では、きっと見抜けないであろう表情の変化。

──何……? なんでそんなに淋しそうなの?!



「じ、次回は、ちゃんと頂きますから」

「いえ、良いんですよ」

「ううん、絶対、頼みます。いつも本当に楽しみにしているんです、店長の『おまかせ』カクテル」



店長でも気持ちが、つい表に出てしまうことがあるらしい。

それに気付けたことが、嬉しかった。

しかし、少しでも残念がらせてしまったと思うと、胸がざわつく。

落ち着かない私を見た店長は、また分かりにくく微笑んだ。



「恐れ入ります。こちらこそ、お客様がカクテルの味を、顔だけで語ってくれるのが面白くて。いつも楽しみにしてたんです」

「ええ……私、そんな、恥ずかしい……」