そして、その中から1枚、名刺を差し出す。



「私、こちらで産業カウンセラーをさせて頂いております、吾妻と申します」



吾妻さんは名刺を、ユウくんの方へと押し付けるように、更に差し出した。



「よろしければ、お名刺だけでも受け取っていただけると……」



吾妻さんの営業スマイルに、根負けした本職営業であるユウくんが渋々、名刺を受け取る。



「……営業部の繁田です」

「ありがとうございます」

「ちなみに、うちの『伊勢』とは、どんな関わりが?」



あれ? ユウくんって、こんなに嫉妬深い人だったんだろうか。

これも、私が知らなかっただけなのか。

声のトーンが、やや低い。

それよりも、私は吾妻さんが余計なことを言わないか、ヒヤヒヤする。

心配して吾妻さんに視線を送ると、吾妻さんはにこりと笑った。



「私の行きつけのお店で、偶然、何度かお会いしてたんですよ。そうしたら、委託されてやって来た、こちらの会社さんで再会した、それだけです」

「『それだけ』と言うなら……今、随分、親しげに歩いていましたが?」

「ああ。これから、そのお店に行こうという話になりまして」



──そ、それ以上は止めてー!

今日のところは、店長のお店の話は無かったことにして、解散の流れにもっていってくれたら良いのに。

案の定、ユウくんがカマキリの様に、ゆっくりと私を見る。



「それ、本当の話?」

「う、うん」



ユウくんは私の返事に対して、不服そうにする。

そして、吾妻さんへ、また向き直った。

彼の視線が完全に私から外れてから、吾妻さんへ私の微力な目力で念力を送る。

──どうしてくれるの!