目の合った人物が、喫煙スペースから出てくるのが分かった。

冷や汗が出る。



「みさおちゃん。お疲れ様」



呼び止められて、当然、無視する訳にはいかない。

私は可笑しな顔にならないよう、努めて平静を装い、振り向いた。



「……あ、ユウくん。お疲れ様」



しまった。

完全に油断をしていた。

事が起こってから思っても、もう遅い。

吾妻さんと、もっと距離を空けて、歩いておけば良かった。

何を思っても、もう遅い。

ユウくんの顔を見れば、いつもの彼からは感じたことのない、強い感情が伝わってきた。

表情には出ていないものの、分かるのは穏やかではないただならぬ様子だ。

いつもとは違う雰囲気。

そうでなければ、今もこうして飛び出すように現れないだろう。



「今、帰り?」

「あ、うん」

「そっか」

「ユウくんは?」

「1本吸ったら、帰ろうと思ってたとこ」



会話が途切れても、ユウくんはそこから動かない。

何か、言われるのかもしれないと、察する。

もしかしたら、一緒に帰ろうと言われるのかもしれないし、もしくは──。



「ところで……今、一緒に歩いてた人は、同じ部署の人? あんまり見ない人だけど」

「あ、えっと……」



嫌な予感が的中した。

探られているのだ。

吾妻さんの居る方を見ると、少し離れたところで立ち止まっている。

気を遣って、先に行こうとしていたのだろう。

それなのに、私がユウくんと話す様子を窺いながら、戻ってきてしまった。



「遅くまでお仕事、お疲れ様です」

「……どうも」



不自然な程、にこやかな吾妻さんと対照に怪しんでいるユウくん。

──吾妻さん、一体、何を考えているの……。

すると、吾妻さんはスーツのジャケットの胸ポケットから、名刺入れを取り出した。