羊かぶり☆ベイベー




部屋からは、吾妻さんが1人出てきただけだった。

出たきた瞬間、吾妻さんは少しうつ向いているように見えた。

鍵をかけようとしている。

久しぶりに姿を見たら、動揺してしまい、何と声を掛けたら良いのか、軽く混乱状態に陥る。

そうして私が金魚の様に口をパクパクさせている間に、先に吾妻さんの方が、私の存在に気付き、目が合ってしまった。



「うわぁ! びっくりした!」



相当、驚かせてしまったようで、吾妻さんは少し飛び上がる。



「居るなら、言ってよ~。今、口から心臓出たかと思った」

「す、すみません……」



驚きの余韻を引き摺る吾妻さんは、苦笑いしている。

そして、改めて扉の鍵をガチャンと締めた。

その鍵の束をスラックスのポケットに突っ込むと、私を見る。

やっぱり、ほら。

また、しっかりと視線を合わせてくれる。

その表情は変わらず穏やかだが、いつもより明るさが翳っているようにも見えた。



「今日は、残業になっちゃった?」

「あ……」

「お疲れ様」



私が悪いのに、優しく声をかけてくれる。

その優しさが尚更、申し訳ない気持ちを膨らませていく。



「あ、吾妻さん。今日は本当に、すみませんでした。何の連絡も入れずに、私……」

「え? 電話入れてくれてたじゃん。ごめんね。俺も出られなくて。他の人のが入っちゃってたから」

「お仕事中、出られないのは、当然です」

「じゃ、お互い様だ。大丈夫。気にしないで」



この人の優しさって、どこから来てるんだろう。

初めて会ったときは、ただの軽い男の人だとしか思えなかったのに。

あの頃の吾妻さんから、本人自体は何も変わっていないのに。

私のこの人に対する捉え方が、変わってしまったんだ。