部屋からは、吾妻さんが1人出てきただけだった。
出たきた瞬間、吾妻さんは少しうつ向いているように見えた。
鍵をかけようとしている。
久しぶりに姿を見たら、動揺してしまい、何と声を掛けたら良いのか、軽く混乱状態に陥る。
そうして私が金魚の様に口をパクパクさせている間に、先に吾妻さんの方が、私の存在に気付き、目が合ってしまった。
「うわぁ! びっくりした!」
相当、驚かせてしまったようで、吾妻さんは少し飛び上がる。
「居るなら、言ってよ~。今、口から心臓出たかと思った」
「す、すみません……」
驚きの余韻を引き摺る吾妻さんは、苦笑いしている。
そして、改めて扉の鍵をガチャンと締めた。
その鍵の束をスラックスのポケットに突っ込むと、私を見る。
やっぱり、ほら。
また、しっかりと視線を合わせてくれる。
その表情は変わらず穏やかだが、いつもより明るさが翳っているようにも見えた。
「今日は、残業になっちゃった?」
「あ……」
「お疲れ様」
私が悪いのに、優しく声をかけてくれる。
その優しさが尚更、申し訳ない気持ちを膨らませていく。
「あ、吾妻さん。今日は本当に、すみませんでした。何の連絡も入れずに、私……」
「え? 電話入れてくれてたじゃん。ごめんね。俺も出られなくて。他の人のが入っちゃってたから」
「お仕事中、出られないのは、当然です」
「じゃ、お互い様だ。大丈夫。気にしないで」
この人の優しさって、どこから来てるんだろう。
初めて会ったときは、ただの軽い男の人だとしか思えなかったのに。
あの頃の吾妻さんから、本人自体は何も変わっていないのに。
私のこの人に対する捉え方が、変わってしまったんだ。



