「じゃあさ、俺にも優しくさせてほしいなぁ。さっきは、どうして泣いていたんですか」
どうしてか。
そんなことはもう、容易に簡潔に述べることが出来る。
私は、ついさっき彼氏に浮気をされた。
それだけのことだ。
ちなみに、彼氏とは付き合って、まだ間もなかった、私にとって人生初の人だった。
「さっき──
人生初の浮気をされてホヤホヤのこんな私を、何故か話す気にさせてしまう彼が、不思議で仕様がなかった。
不覚にも少し「すごい」と思ってしまったではないか。
だって、この人という人は、これほどまでにすんなりと、私の言葉を引き摺り出すことができるのだから。
私がこれから話そうとしているのは、冒頭よりもう少し前の時間帯。
会社から帰ろうとしているときのことになる。



