羊かぶり☆ベイベー




向かうのは、いつものあそこ。

いつも吾妻さんが、人懐っこい笑顔で迎えてくれる場所。

階段を駆け上がり、2階の廊下に飛び出した。

一番奥の部屋を遠目で確認すると、扉の曇りガラスから光が漏れているのが見えた。

──まだ、居る。

私の予約時間は、とうに過ぎている為、カウンセリングはしてもらえないだろう。

それでも、せめて謝罪だけはしておきたい。

この前の旅行のこともあって、吾妻さんに気まずがられて、素っ気なくされたとしても、それはそれで仕方が無い。

私が寂しく感じてしまうだけのこと。

でも、きっとあの人に限って、そんな態度をとる確率はかなり低いと思う。

そう思えるのは、以前にも似たようなことがあったとき、避けるどころか、ちゃんと目を合わせて、迎え入れてくれたから。

店長のお店で私が嫌な態度をとってしまった、その直ぐ後、店長から吾妻さんのカウンセリングルームの名刺を貰って。

ユウくんがあの女の子と居るのを見て、自身の弱点を自覚して。

そして、このカウンセリングルームに足を踏み入れるきっかけとなる、電話をした。

そのときには、むしろ、こちらを気遣ってくれた。

私のことを嫌になって、突き放したりせずに、温かく迎え入れてくれていた。

何も恐れることはない。

あの人だから。

私が少しだけでも勇気を出して、私から歩み寄る努力さえすれば、きっと大丈夫な筈だから。

信じて、自分に言い聞かせて、部屋の方へ心の準備を兼ねて、ゆっくり進む。

すると、あと数歩でドアノブに手が届きそう、というところで部屋の中の電気が突如、消えた。

──あ、もう帰ってしまう。

そう思ったとき、扉は開いた。