向かうのは、いつものあそこ。
いつも吾妻さんが、人懐っこい笑顔で迎えてくれる場所。
階段を駆け上がり、2階の廊下に飛び出した。
一番奥の部屋を遠目で確認すると、扉の曇りガラスから光が漏れているのが見えた。
──まだ、居る。
私の予約時間は、とうに過ぎている為、カウンセリングはしてもらえないだろう。
それでも、せめて謝罪だけはしておきたい。
この前の旅行のこともあって、吾妻さんに気まずがられて、素っ気なくされたとしても、それはそれで仕方が無い。
私が寂しく感じてしまうだけのこと。
でも、きっとあの人に限って、そんな態度をとる確率はかなり低いと思う。
そう思えるのは、以前にも似たようなことがあったとき、避けるどころか、ちゃんと目を合わせて、迎え入れてくれたから。
店長のお店で私が嫌な態度をとってしまった、その直ぐ後、店長から吾妻さんのカウンセリングルームの名刺を貰って。
ユウくんがあの女の子と居るのを見て、自身の弱点を自覚して。
そして、このカウンセリングルームに足を踏み入れるきっかけとなる、電話をした。
そのときには、むしろ、こちらを気遣ってくれた。
私のことを嫌になって、突き放したりせずに、温かく迎え入れてくれていた。
何も恐れることはない。
あの人だから。
私が少しだけでも勇気を出して、私から歩み寄る努力さえすれば、きっと大丈夫な筈だから。
信じて、自分に言い聞かせて、部屋の方へ心の準備を兼ねて、ゆっくり進む。
すると、あと数歩でドアノブに手が届きそう、というところで部屋の中の電気が突如、消えた。
──あ、もう帰ってしまう。
そう思ったとき、扉は開いた。



