羊かぶり☆ベイベー




吾妻さんの声が、私の記憶を一気に呼び覚ました。

意味は無くても、会社帰りの出来事で、自然と視界が滲んでくる。

運転中、正面から視線を動かさない、吾妻さんの横顔を見る。

そんな私をどうやって見ているのか、合わない視線のままで、彼は私の表情を察した。



「思い出させたら、駄目だった?」

「別に……今は何を考えても、全部蘇るので、吾妻さんのせいじゃありません」

「優しいね」

「いいえ、全く」



少し目を潤ませた仏頂面で返すと、吾妻さんは静かに微笑む。

目線も合わないくせに、全て見透かされているような気分。

本当に何なの、この人。