吾妻さんの声が、私の記憶を一気に呼び覚ました。
意味は無くても、会社帰りの出来事で、自然と視界が滲んでくる。
運転中、正面から視線を動かさない、吾妻さんの横顔を見る。
そんな私をどうやって見ているのか、合わない視線のままで、彼は私の表情を察した。
「思い出させたら、駄目だった?」
「別に……今は何を考えても、全部蘇るので、吾妻さんのせいじゃありません」
「優しいね」
「いいえ、全く」
少し目を潤ませた仏頂面で返すと、吾妻さんは静かに微笑む。
目線も合わないくせに、全て見透かされているような気分。
本当に何なの、この人。



