吾妻さんの電話番号を見つけた。

画面に表示された、あの人の名前をじっと見ていると、余計に落ち着けなくなってくる。

不安から来る緊張を鎮める為、そっと息を吸う。

これからキャンセルを入れるという緊張感の他に、もう1つ、不安という程ではないが、思ってしまうことがあった。

──もしかしたら、もしかしたら今度こそ、これっきりになっちゃうこともあるのかな。

次の予約日時が、決まっている訳でもないし。

同じ屋内にいるとは言え、雇用形態、業務内容も活動範囲も全てが違う。

今の時点で、会うこともほとんど無い。

それに多分、会えたとしても、まともに目を見て話せないような気がする。

旅行のあの夜、吾妻さんの部屋から抜け出した時には、次に会うとき、気まずくならないように、置き手紙を残そうと、考える余裕があった。

あの夜は、また会えると思ってた。

でも、今、落ち着いて考え直すと、また会うのは、気持ちがちょっとキツいかも。

──私、自分でも知らないうちに、こんなに依存してたんだ……。

しばらく画面と向き合って悩んでいると、聞き慣れた、しかし久しぶりに感じる女性の声が、前方から聞こえてきた。

声の聞こえる方へ、顔を上げる。

すると、向こうも私に気づいたようで、彼女の隣を歩いていたおそらく同じ商品開発部の人に、断りを入れて、手を振ってくれた。



「みさお!」

「汐里。この前の旅行の幹事、お疲れ様」

「みさおも、いろいろ手伝ってくれて、ありがとうね」

「いいえ」



顔を合わせたのは、旅行振りだ。

汐里は2、3冊の分厚いファイルを抱えていた。

彼女も相変わらず、慌ただしくしているようだ。

私が気にしていると、汐里が言う。



「そうだ。今日、お昼一緒に食べようよ」



私が、それに頷くと、汐里はにこりと笑った。



「じゃあ、また食堂で」



お互いに手を振って、そこで一度別れた。