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旅行から数日が経った、平日の昼間。

来客があった為、応接室へ案内する等の対応を終え、総務部へ戻ろうと廊下を歩いているところだった。

私の生活は、至って普通の日常に戻っていた。

だからこそ、複雑な気分になることもある。

旅行中、自分でも未だに信じられないような発言を、吾妻さんにしてしまった。

『吾妻さんと、まだ一緒に居たい……かも、しれないです』

思い出すと、自制心の利かなかった自分自身が、恥ずかしくなってくる。

例え、旅行という非日常な空間で、可笑しな気を起こしていただけだとしても。

例え、何があったとしても、この通常の日常の世界では、以前と同じように振る舞わなければならない。

そして、今日の業務後には、また吾妻さんのカウンセリングがある。

予約をしているので、行かなければならないとは思っている。

しかし、少し躊躇してしまっているのだ。

あれからユウくんとも、まともに会っていない。

だから、カウンセリングに行ったとしても、話せることは何も無い。



「今日くらい、行かなくても、いいかな……」



決して、憂鬱な訳ではない。

どちらかと言えば、少し怖いだけ。

今まで通り、吾妻さんと話す自分が想像出来なくて、怖い。

電話なり、メッセージなり、連絡を一言入れてしまえばいいだけか。

ジャケットのポケットから、スマホを取り出す。

吾妻さんの連絡先を探している間も、鼓動が忙しない。

キャンセルには違いないのだが、自分が行きたくないから行かないという理由は、ただのサボりなのではないか、と少し不安になっているからかもしれない。