羊かぶり☆ベイベー


眉間に触れたまま、あれこれと考えていた私を、ずっと見ていた吾妻さんが溜め息を吐いた。

そして、突然にラジオをつける。

ラジオから聞こえてきた、恐らく二人いる若い男の人のトークは、車内を一気に賑わす。

何となく気まずくて、私はトークに耳を傾けた。

そう、逃げるように。

すると、直ぐに吾妻さんは、ボソッと呟いた。



「あーあ、良いと思ったのにな」

「え」



私が吾妻さんを見た瞬間に、信号は青へと変わり、アクセルペダルがそっと踏まれた。



「俺、みさおさんの明るい顔、一回しか見てない。それ以外、ずっと眉間に皺寄せてるよ」

「そんなこと……」



そんなことある。

だって、あなたのこと、恐らく苦手ですから。

また黙る私に吾妻さんは「あと」と付け加える。



「泣いてるところとか、苦しそうな…嫌そうな顔しか見てない」

「だから……?」

「笑ってるところ見たいなー、なんて。ほら、太陽の恵み?あのカクテル飲んだときみたいに、嬉しそうにしてみせてよ」

「太陽の恵みじゃありません。『恵みの太陽』です」

「まあ、そこはどうでもいいから」



吾妻さんが、鼻で息を吸い込んだ。

そして、私を一瞬見て、また正面に向き直る。



「もう二度と、会わないかもしれないんだしさ。なんか辛いことでもあったんじゃない?話してくれていいよ」