眉間に触れたまま、あれこれと考えていた私を、ずっと見ていた吾妻さんが溜め息を吐いた。
そして、突然にラジオをつける。
ラジオから聞こえてきた、恐らく二人いる若い男の人のトークは、車内を一気に賑わす。
何となく気まずくて、私はトークに耳を傾けた。
そう、逃げるように。
すると、直ぐに吾妻さんは、ボソッと呟いた。
「あーあ、良いと思ったのにな」
「え」
私が吾妻さんを見た瞬間に、信号は青へと変わり、アクセルペダルがそっと踏まれた。
「俺、みさおさんの明るい顔、一回しか見てない。それ以外、ずっと眉間に皺寄せてるよ」
「そんなこと……」
そんなことある。
だって、あなたのこと、恐らく苦手ですから。
また黙る私に吾妻さんは「あと」と付け加える。
「泣いてるところとか、苦しそうな…嫌そうな顔しか見てない」
「だから……?」
「笑ってるところ見たいなー、なんて。ほら、太陽の恵み?あのカクテル飲んだときみたいに、嬉しそうにしてみせてよ」
「太陽の恵みじゃありません。『恵みの太陽』です」
「まあ、そこはどうでもいいから」
吾妻さんが、鼻で息を吸い込んだ。
そして、私を一瞬見て、また正面に向き直る。
「もう二度と、会わないかもしれないんだしさ。なんか辛いことでもあったんじゃない?話してくれていいよ」



