思っていたよりも楽しめた社員旅行も、もうすぐ終わろうとしていた。

帰路につくのバスの中、はしゃぎ疲れた大人たちは、夢の中で旅行の続きを楽しんでいることだろう。

私はと言うと、相も変わらず先輩と小さな声で雑談中だ。

途中で、高速のサービスエリアに止まった時、休憩に数名が降りていく。



「伊勢さん、トイレ休憩行く?」



先輩は尋ねてくれたが、正直なところ、もう立ち上がることも億劫で、気力も無い。

私もはしゃぎ過ぎたので、人のことは言えなかった。



「大丈夫です。私は残ります」

「わかった。じゃあ、私行ってくるわね」

「はい。いってらっしゃいませ」



疲労感も相まって、可笑しいなテンションの私は、おふざけを少し含めて返事をする。

先輩が降りていくのを確認すると、妙に力が抜けた。

人になると、頭にふと浮かぶ。

楽しかったことだけなら良いのだが、昨夜の出来事を思い出してしまう。

──吾妻さん、なんであんなこと……。

感覚が戻ってきて、顔が熱い。

自身の両頬を両掌で包み込む。

その時、休憩に向かう吾妻さんが、私の横を通り過ぎた。

とうとう今日、一度も目が合うことはなかった。

そもそも私が吾妻さんと目が合いそうになったら、慌てて視線を逸らしていただけだ。

私には直ぐ、逃げ出そうとする癖がある。

戦場で戦っているとき、逃げることも時には1つの手法だと言うが、常に逃げているのでは話にならない。

私はいつだって、そう。

嫌な印象のままの営業部の女の子のことだって、何よりユウくんのことだって。

そして、まさに今、吾妻さんのことだって。