何だろう、と思うと同時くらいに、吾妻さんが私に躙り寄る。
そして、腕を引き寄せられ、いつの間にか吾妻さんの腕の中に収まっていた。
人の温かさと、力強い、だけど優しい力加減に心が疼く。
抑えていた筈のものが、目から止めどなく溢れてくる。
あの時、堪えていた嗚咽も漏れ出した。
それに気付いた吾妻さんは、私の後頭部を2、3度、優しく撫でてくれる。
駄目だ。
この人の声や体温、仕草には、魔法がかかっているようだ。
何も堪えられなくなる。
本当に恐ろしい人。
必死になって、縋ってしまう。
「……彼と、前に言った例の女の子が」
「もしかして、ソファに座ってた2人?」
「そ、です……」
「まさか、みさおさん、その子と接触した?」
「はい……」
頭の上から、溜め息が聞こえる。
「何かされた?」
「ちょっとだけ、言い合い……になったくらい、ですかね」
言い合いだなんて、嘘。
私が完全に圧されていた。
「頑張っちゃったんだ、みさおさん」
「ちょ、ちょっとだけですよ」
ここで、黙ってしまおうかと思った。
でも、自分の心の中に溜め込んで置くには、自身に今後、悪影響を及ぼしかねない。
今のうちに、吾妻さんが聞くと言ってくれているうちに、吐き出してしまわなければ。
永遠に抱え込むことになってしまいそうだ。
ちゃんと言葉に出来る願掛けのつもりで、落ち着けていなくても、せめて浅く呼吸をする。
「……あと」
「ん?」
「あそこで、2人がキス……確かにしてて……私、それを見ちゃって」
とりあえず、吾妻さんからの返事はない。
それでも、ちゃんと聞いてくれていることは、分かっている。
なぜなら、私を包み込んでくれている手に、少し力が入ったから。



