羊かぶり☆ベイベー


それから沈黙が訪れて、つい先程の吾妻さんの言葉が、リフレインする。

『人間にはさ、得意不得意ってもんがあるでしょうが』

確かにあるよね。

私は、お酒は好きだけど。

私が特に不得意としていることは、人間関係。

誰かと居るとき、またはそうでなくても、自分自身が何者であるか、迷子になる。

それなのに、何故だろう。

初対面のこの人に、冗談らしいことを言えてしまう。

易しい程度の憎まれ口まで、叩けてしまう。

何気無く、彼を横目で見る。

彼、吾妻さんという人について知っていることは、私の行き付けの店の店長の、同級生ということのみ。

あと、態度が図々しい、軽いということ。

嫌悪感を抱いたはずが、少し気が楽だ。

お酒が入っていても、返す言葉が、すんなりと出てくるくらいには。

きっと私がこうして居られるのは、彼が私のことを何も知らない、初対面の人間であるから。

だから、気が楽なのだ。

それ以外に、きっと無い。