それから沈黙が訪れて、つい先程の吾妻さんの言葉が、リフレインする。
『人間にはさ、得意不得意ってもんがあるでしょうが』
確かにあるよね。
私は、お酒は好きだけど。
私が特に不得意としていることは、人間関係。
誰かと居るとき、またはそうでなくても、自分自身が何者であるか、迷子になる。
それなのに、何故だろう。
初対面のこの人に、冗談らしいことを言えてしまう。
易しい程度の憎まれ口まで、叩けてしまう。
何気無く、彼を横目で見る。
彼、吾妻さんという人について知っていることは、私の行き付けの店の店長の、同級生ということのみ。
あと、態度が図々しい、軽いということ。
嫌悪感を抱いたはずが、少し気が楽だ。
お酒が入っていても、返す言葉が、すんなりと出てくるくらいには。
きっと私がこうして居られるのは、彼が私のことを何も知らない、初対面の人間であるから。
だから、気が楽なのだ。
それ以外に、きっと無い。



