資料館を出ると、休憩スペースになっており、ベンチや飲食販売などがされていた。

既に、うちの社員さん達も休憩をとっていて、真っ昼間からビールで喉を潤わせている。

先輩は少し汗を滲ませていたが、にこりと笑顔で言った。



「ふぅ。ちょっと疲れちゃったわね。お手洗い行ってくる」

「はい。私、ここのベンチで待ってます。あ、良かったら、飲み物、何か買っておきます。何が良いですか?」

「ありがとう~。じゃあ、お茶が良いかな」

「わかりました」



1人になって、2人分飲み物を買う。

そして、ベンチに腰を下ろした。

自分の分のお茶を飲み、乾いた喉を潤したら、気持ちに余裕が出来てくる。

そこで染々と改めて思った。

──私、楽しんでるなぁ……!

やっぱり気の合う人と居るだけで、こんなにも私が違う。

偶然、付近に居た、普段、挨拶くらいしか交わすことのない社員さんに話し掛けられても、生き生きと返せる。

何も苦だと、思えないからだ。

まさに、ここは非日常。

先輩を待って、ぼうっとしている間ですら、新鮮だった。

その時、遠くに居る1人と目が合う。

相手はニコッと笑い、こっそりと手を振られた。

1人ぼっちの吾妻さん、だ。

無視は失礼だと思い、軽く会釈を返す。

しかし、特に寄ってくる様子もなかった。

『もし、何もすることが無くなって困ったら、俺のところにおいで』

前回のカウンセリング終了後、雑談で社員旅行の話題になった時に、そんなことを言われた。

そうか。

私から行かなきゃ駄目、ってことなのかな。

でも、今は生憎「何もすることが無い」わけじゃない。

先輩がお手洗いから戻ってくるのも、見えているし。

私は吾妻さんのことは、このまま放って置くことにした。