「──今日もありがとうございました」

「いいえ。こちらこそ」



ニッコリと笑って、吾妻さんは書類を束ね、机の上でトントンと整える。

私も鞄の中身を整理して、立ち上がると、吾妻さんが何かを思い出した様な顔で、私を見上げた。



「あ! そういえばさ……」

「何ですか?」



無色透明のクリアファイルの中に挟まれた、数枚の書類をパラパラと捲っている。

そして、その中から1枚のA4用紙を取り出した。



「みさおさん、これ貰った?」

「ん? 何ですか? これ」

「社員旅行の案内。今時、珍しいね、ここの会社」



目の前に差し出されたイラスト付きの案内は、恐らく汐里が作成したであろう、商品開発部お手製のもの。

今年の行き先は、長野県。

汐里と食堂で話したことを、ふと思い出す。

どうやら、汐里の提案が通ったらしい。



「いいえ。まだ貰ってません」

「そっか。今日、廊下を歩いていたら、渡されたんだけど」

「吾妻さん、行かれるんですか? 旅行」

「うん。誘ってもらえたからには、行こうと思って。こういう場に参加することも、カウンセラーとして、大事な仕事の1つだし」

「そうなんですか?」

「そうそう。この会社には、どんな人達が居るのかとか、交流して知っていけば、ケアの仕方とかも見えてくるかもしれないからね」