お札をカウンターに置き、吾妻さんは私にまた「大丈夫」と笑う。
「壮ご馳走さま。また来るから」と一言添えて、店を出ようとしていた。
「壮」とは、店長の名前なのだろう。
私がそんなことを思い、お酒も手伝って、少しぼうっとしていた。
すると、出入り口の扉まで辿り着いていた吾妻さんが、私に手招きをする。
タクシー以外に帰る術を思い付きもしない、どう仕様もない私は、彼についていくことにした。
我ながら、後先を考えない奴だな、と呆れるしかなかった。
あとで後悔しても、何も言えない。
でも、大丈夫。
後悔なら、この人生いくらでもしてきてるから。
今日だって、大きな後悔をしたばかりだし。
とりあえず、お金を使わずに家の近くまで、無事に帰してもらえるなら良いか、と考えてしまったのだ。
いろいろと思考を巡らせて、今日起きた悲しい出来事に辿り着くと、一気に酔いも覚めてしまった。
意外にも、頭もしっかりと働いている。
外に出て、暗闇の中に、お店の灯りが彼の顔を浮かび上がらせたとき、偶然にも目が合った。
「まだ疑ってる?」
「いいえ?全く」
間違いで何かあったときには、鉄拳を喰らわせてやる。
私は冷や汗を垂らしながらも、挑戦的に微笑んでみせた。



