「さて、何飲む? いつも通り、烏龍茶?」



席に着くとメニューを広げながら尋ねるユウくんに、私は首をゆっくりと横に振った。

それに、彼は少し驚いている。



「え……じゃあ、何にする?」

「今日は……あ、これ。ノンアルの梅酒にする」



お品書きに書かれた梅酒の文字を見つけて、妙なことをしているような緊張感と、お酒紛いでも飲めることに気分を昂らせながら、そこを指差す。

ユウくんは気にしない素振りで店員を呼び、注文してくれた。

しかし、やはり気になったのか店員が去った後、話題を出してくる。



「みさおちゃん、普段、酒飲むの?」

「うん、まぁね」

「結構、いける方?」

「……まあ、そこそこ」



私は嘘を吐いた。

自信無さげに、敢えて答える。

お酒が好きか、と聞かれると肯定はし難い。

ザルなのか、と聞かれたら否定する。

そんな程度のあやふやなものだからだ。

いつも通りに「へぇ」とだけ言って、お冷やを喉に通す。

その短い返しに、直ぐにハッと思い出す。

――今、ユウくん「へぇ」って言ったのに!

表情なんて、全く見ていなかった。

私はその時、どこを見ていた?

記憶に無い。

逃してしまったチャンスは、仕様がない。

また巡ってくることを待つしかない。