わたし、BL声優になりました

「え?」

 赤坂は参ったと言わんばかりの、大きなため息を吐き、大袈裟な仕草で額《ひたい》に手を当てる。

 正直、黒瀬が女性に飢えているという言葉の意味が理解出来ない。

 寧ろ、あれだけ雑誌等で持てはやされているのだから、女性関係に関しては困らないのではないだろうかと勝手に思っていた。

 まあ、それが事実ならば、最低と言えば最低だけれど。

「女性に飢えているから、男性にも手を出しているっていうことですか」

 胸裏で思っていたことが、そのまま口先から零れ落ち、驚愕する。

 なんということだ。ならば、本当にBL的な展開になってしまう可能性があるということですか?

 黒瀬さん、物凄い危険人物ではないですか。

 ゆらぎは脳内で、自身の言葉に冷静にセルフツッコミを入れる。

「いやいや! そうじゃなくてね。セメルくん、BL関連のお仕事が多いから、必然的に現場は男性声優ばかりになってしまうんだ。それで、最近は同業者の異性と会う機会が減って……不満を抱いているらしくてね」

 赤坂の続く言葉を固唾を飲んで見守る。

「だから、君が女性だとバレてしまったら、確実に良くないことが起こると思うんだ」

 つまり、赤坂が危惧しているのは、ゆらぎは女性だと黒瀬が気付いた時、彼に弱味を握られてしまうことを懸念していたのだ。

 同じ事務所に所属している立場とはいえ、そんな大きな秘密を抱えている彼女を、彼は黙って見過ごすはずは無いということだ。

 事の重大性を知り、いつものような冗談を言える状況ではないことに、ゆらぎは背筋が凍った。

 ──そう。黒瀬セメルは、狙った獲物は決して逃がさない、狼のような人物だったのだ。