わたし、BL声優になりました

 ……ん? 今、赤坂さんの口から下着がどうとか聞こえた気がする。

 もしや、黒瀬セメルは下着フェチなのか。
 隠れ、むっつり変態なのか。

 ゆらぎは無表情を装いつつ、脳裏で黒瀬セメルに対しての、あれやこれやを勝手に妄想する。

「白石くんが女性だとバレないように、という意味ですよ。セメルくんの保身の為にも、一応言っておきますが、そんな趣味はないはずです。……隠れむっつり変態でなければ、ですが」

「あれ、もしかして声に出てましたか」

「はい。至極真面目な顔で言っていたので、少し可笑しかったです」
 
 自身の口許を手で覆い隠し、笑いを堪えている赤坂は、こほんっと一つ咳払いをして、緩んだ表情を整える。

 もしかして私は、今までも無意識の内に独り言を口走っていたのだろうか。

 それならば、赤坂さんがエスパーになるのも当然だ。

「あ、でも私、胸とか全然ないので、下着については大丈夫な気がしますよ。普段はブラトップですし」

「えっと、白石くん? そういう問題ではなくてですね……」

 赤坂は戸惑い気味に、自身の赤い眼鏡のブリッジを押さえる。

 思い切って自虐ネタを放り込んだら、ものの見事に赤坂さんに苦笑されてしまった。

 胸が小さいのは本当のことなのだけれど。

「すみません……」

「ああ、いえ。謝らなくても大丈夫ですよ。うーん、でもセメルくんのことだし、万が一の事があってからでは遅いんですよ」

「あの、黒瀬さんの何がそんなに危ないんですか?」

 二人はリビングで立ち尽くしたまま、会話を続ける。

「それは……」

 ゆらぎの最もな疑問に、何故か赤坂は言い淀んでしまう。

 ゆらぎは元々、とある女性声優に憧れて、この業界へと足を踏み入れた。

 その為、男性声優に対しての知識は全くと言っていいほどに浅く、特にBLについては専門外だった。

 黒瀬セメルという人物が、BL界のドS王子として君臨していることも、つい最近知ったばかりで、ゆらぎの中での彼の人物像は未だ謎に包まれている。

 黙考していると、赤坂の控えめな声音が不意を突いて、頭上から落ちてきた。

「飢えているんです。……女性に」