わたし、BL声優になりました

 思わず、いつもの調子で「尾行って、どういうことですか?」と危うく口走りそうになり、ぐっと堪える。

 ここで素の自分が出てしまっては、全てが台無しになってしまう。それに、ここまで来たのだ。もう、いっそ知られたくないとさえ思い始めている。

「週刊誌の奴らか……」

 ぽつりと小さく呟いた黒瀬の言葉に、ゆらぎは徐々に冷静さを取り戻した。

 九十九院トキが忠告した、あの言葉が蘇る。

『──ゴールドセブンには気をつけなさい』

 いや、まさか。

 ウグイス先輩の身の潔白は証明された。
 
 なら、誰が……。

 否。『誰が』なんて、考えるだけ無駄なのかもしれない。この業界に身を置くと決めた時から分かっていたことだ。
 
 自分以外は全て敵。

 場合によっては身内さえも、疑わなければいけない時がある。

 そうまでして、黒瀬を陥れたい人物がいる。
 それだけは、紛れもない事実なのだ。

 週刊誌の記者だとすれば、おそらく、今日の一部始終は写真に納められているだろう。

 疚しいことは何一つしていないのに、面白おかしく記事にされ、そして黒瀬の評価に傷を付けるに違いない。

 私が迂闊だった。

 赤坂マネージャーが、付きっきりで黒瀬先輩を守っていたというのに。

 私の軽率な行動によって、一瞬にして全てが壊れてしまった。

「ごめんなさい」

 謝らずにはいられなかった。

 黒瀬先輩の人気が低迷したら、私はどう責任を取るべきなのだろうか。頭の中が真っ白に染まっていく。

「謝るな、白石」

「……え」

「自然にしてろ」

 前を向いたまま、然り気無く黒瀬はゆらぎの手をとり、繋ぎ合わせた。

 今、白石って……言った?

 聞き間違い、じゃないよね……。

 黒瀬の横顔を見つめる。真剣な表情だった。

「このまま、バーに入る」

「はい」

 人混みを抜けて、ビルの一角にひっそりと看板を構えているバーの扉に黒瀬は手を掛けた。