わたし、BL声優になりました

 あまりにも突然のことで、全ての思考が停止する。

 一番気付かれてはいけない相手に、自身の性別を知られてしまったことに、完全に気が動転してしまったのだ。

 咄嗟に嘘をつけるような余裕もなく、表情を硬直させる。

「なに……言ってるんですか。昨日も言いましたけど、オレ、男ですって。自分で言うのもあれなんですけど、こんな美男子、中々いないでしょう?」

 必死に紡いだ言葉は無惨にも、目の前でボロボロと崩れていく。

 行動の端々から自分が動揺しているのが、まる分かりだった。

「うん。美男子だね。でも、それは君が女の子だからでしょ? じゃなきゃ、そんな中性的な顔してないと思うけど」

 緑川の言葉は確かに正論だった。

 男性にしては細過ぎる身体の線や、男女の差が表れやすい筋肉の付き方。

 服装で体格を隠していても、彼女に対する疑念を一度でも抱いてしまえば、その他にも不信に思うところは次々と浮かんでくるだろう。

 寧ろ、今まで誰にも気付かれなかった方がおかしいのだ。

 正式なデビューを目前にして、私は事務所をクビになってしまうのか。

 目の前が真っ暗になる。

 ゆらぎの手からカップが滑り落ち、コーヒーが床に黒い溜まりを作り広げていく。

 今までの苦労が、たった一度の過ちで全てが水の泡と化してしまった。

 絶望が心の淵《ふち》から湧き上がってくる。

「バカっ! 何してるんだよ! 火傷になるだろ!」

「え……?」

 突然の緑川の怒声に驚き、放心状態だったゆらぎは我に返る。

 落としたカップは見事に砕け、コーヒーは床だけではなく、ゆらぎの太腿《ふともも》にも零れてしまっていた。

 道理で太腿が熱いと思った。

 途端に痛みを感じ始め、ゆらぎは顔を歪ませる。

「チッ。この、バカ女が」

 何も出来ずにいると、不愉快そうに舌打ちをした緑川が、ゆらぎを抱き抱えた。