「なるほど、ね。役に感情移入し過ぎるのは少し厄介かな。悪いことではないけど」
ゆらぎは自身の内側に溜め込んでいた、気持ちを吐き出す。
緑川は彼女がいま何に悩んでいるのか、一瞬で理解した。新人時代の自分と重ね、言葉を選んでいく。
「やっぱり、そうなんですね。台本を読み込みすぎたせいで、自分の中でキャラが出来上がってしまって。監督とのズレが生じてるんです」
「あるある。このキャラなら、こうなんじゃ? って、思ったりするけど、後々のストーリーを考えると、いま自分が演じてるキャラとの辻褄が合わなくなってきたりしてさ。難しいよね」
僕も昔そんなことが有ったな。
ただ、演じればいいわけでもない。
けれど、自分の想像を固め過ぎてもよくない。柔軟な対応が出来るようになるまで苦労した。
「はぁ……私、やっていけるんですかね。今から不安しかないです」
「せっかく舞い込んできた仕事なんだし、やるしかないよ。いまは苦しいかもしれないけど、それを乗り越えたとき、きっと自分のことを成長してるって思えるはずだから。
あとは、君の大切な人に話を聞いてみなよ。ああ見えて、黒瀬も苦労人だから」
「それは……なんとなくですけど、気付いてました。事務所に居た時から、色々経験したから、うまく立ち回れるんだろうなって」



