わたし、BL声優になりました

 トワイライト事務所が、黒瀬の所属を公式発表した翌日。

「そう。それはよかったね」

 黒瀬から現状報告の電話を受け、緑川は気のない返事をする。

『それだけか?』

「はぁ……。まさか、律儀に交際報告しに来るとは思わなかった。本当のバカなんだね」

『ああ? 誰がバカだ』

 確かに緑川の心情を思えば、同情すらしたくなる。

 何が嬉しくて、他人の交際報告を、しかも惚気話まで聞かされなければならないのか。

 腹立たしく思うのも当然だろう。

 緑川も彼女に惹かれていた。最初は嗜虐心だったかもしれない。けれど、いつの間にか本気になっていた。

 だから、少しでも振り向いて欲しくて、黒瀬なんか目に入らないくらい、自分に夢中にさせたかった。

 それくらい、彼女のことが好きだった。
 いや、今でも好きなんだ。

 でも、この想いは、きっともう叶わない。
 
 何も知らない黒瀬を見ると、苛立ちが湧き上がり、この想いを全てぶちまけてしまおうかと愚策してしまう。

 喉元につっかえた言葉を必死に飲み込む。

 そんな無様な真似だけはしたくなかった。黒瀬にも、彼女にも見せたくなかった。

 緑川なりの、せめてもの強がりだった。

「僕に感謝しなよ、黒瀬。それじゃ、電話切るから」

『は? ちょっと、ま──』

 緑川はこれ以上、自身の醜い感情を晒すことに耐えられなくなり、会話の途中で通話を切断した。