「……いえ、平気です」
英語さえ乗り切れれば……。
そう、脳内では思っているものの、正直に言うとツラい。
最早、宇宙人の会話にしか聞こえなくなってくるのだ。
ふと視線を黒瀬に移すと、彼は缶ビールを片手に真剣な眼差しで、映画に観入っていた。
手にしている物が缶ビールではなく、ワイングラスだったならば、実に絵になるような雰囲気だった。
まあ、もう片方の手には焼きスルメが握られているわけで、それが全てを台無しにしているのだが。
映画観賞を終えた後、赤坂とゆらぎは無事に黒瀬から解放されることとなった。
黒瀬の意外な一面というか、新たな一面を見ることが出来て、ゆらぎはこんな日も悪くはないと思いながら自室へ戻った。
……はずだったのだが直後、呼鈴が室内へ響き渡る。
気だるげに玄関のドアを開くと、黒瀬がそこにいた。
「……なんですか」
「連絡先聞くの忘れてたからさ。教えてよ」
ほろ酔い加減の彼はニコニコ笑顔で携帯を軽く振り、ゆらぎの連絡先を催促する。
「はぁ、分かりました……」
「あ、そう言えば名前なんだっけ?」
彼から半ば強制的に自室に招き入れておきながら、お互いに自己紹介らしきことはしていなかったなと今更ながらに気づく。
「白石護……です」
「白石護、か。うん、覚えた。ちなみに俺のことは黒瀬先輩って呼んでくれてもいいからな」
簡単な自己紹介を交わして、連絡先を交換し終えた黒瀬は、満足げな表現で自室へと帰って行った。
いや、何が黒瀬先輩ですか。もう、そう呼ぶこと前提ですよね。
少しばかり悪態をつき、ゆらぎは部屋の扉をしっかりと施錠した。



