わたし、BL声優になりました


「なら、友人を誘ったら良いのでは?」

 事務室で赤坂からオーディション予定日の説明を受けた後、ゆらぎは先ほど、寮で遭遇した黒瀬のことを伝える。

「セメルくん、インドアだから……」

 赤坂はゆらぎの視線から逃れるように、手元の書類に視線を下ろして答える。

 成る程。つまり、黒瀬さんは友人が少ないのですね。

 というより、寂しがり屋だとは初耳です。そういう人物には見えませんでした。

 黒瀬のこととなると、何故か言い淀んでしまう赤坂だが、それは彼に対するイメージダウンを考えてのことなのか。

 それとも気を使っているだけなのか。
 その理由は解らない。

「白石くん。新人はオーディションが命なので、全力で頑張って来てくださいね。私も、良いお仕事が取れるように、頑張りますので」

「はい。頑張ります」

 タレントの仕事予定日等が、みっちりと書き込まれているボードを眺め、ゆらぎは返事を返す。

 予定表ボードに真新しく加わった『白石 護』の名前に、いずれは愛着が湧く時が訪れるのだろうか。

 そんな漠然とした思いを抱きながら今週末、ゆらぎは人生初めてのオーディション用ボイスサンプルを収録することになった。無論、BL作品だ。

 だが、その前に。今日は赤坂と共に、寂しがり屋である黒瀬の部屋に、訪問しなければならないのだ。

 少しだけ。ほんの少しだけ、黒瀬に対する不安が募った。