ランディは、最後に別れを告げる。


「君のお父さんを救えなくて、悪かった。…もう君と二度と会うことはないだろうけど、必ず仇はとるよ」


アルジーンは、初めてぽろりと涙を流した。

強気で、ランディを心底嫌っていたはずの彼が、ランディを掴んでいた手を離す。

外套を翻したランディは、颯爽と街の門をくぐった。

振り返りはしない。


「…いいのか?本当のことを言わなくて」


「あぁ。長年嫌っていた奴が兄だと知ったら、今までの態度を悔やんで苦しむかもしれないからね。あの子、僕と違って真面目だから」


にこりと笑ったランディは、全てを背負った大人の顔をしていた。

きっと、彼がついた全ての嘘は優しさだ。綺麗な真実などないのだから。

少し寂しげに笑うランディへ、語りかける。


「きっと、私たちがランディとこの街で出会ったのも神様のお導きね。私たちは共に旅をする運命だったのよ」


「また神か。…くだらねえ…」


相変わらず冒涜発言を繰り返すシドをキッ、と睨むと、ランディはくすくす笑って、こちらをまっすぐ見つめた。

流れるようにお辞儀をした彼は、紳士の笑みを浮かべて凛と告げる。


「さ、改めて。僕はランディ。家出したダンピールの元執事だよ。以後、よろしくね」


ーーこうして。

ふわりと笑った翠瞳の彼とともに新たな土地への三人旅が始まったのであった。