カチャ…、と無意識に腰にさげたレイピアへと手が伸びた。
もはやここまで堕ちてしまったら、もう元には戻れない。
なんとかして自我を取り戻すくらいの血を与えることが出来れば話は別だが、こんなに暴れているようじゃ、輸血もままならないだろう。
(…こうなったら、住民が犠牲になる前に、僕がこの手で“ケリをつける”しか……)
しかし、その柄に指が触れた瞬間。
ランディは、はっ!と呼吸を忘れた。
ーーぽた…っ。
地面に落ちたのは、血ではなかった。
つぅ、と頬を伝った“彼の涙”。
深紅の瞳から溢れる雫に、ぎゅうっ、と心が締め付けられる。言葉を失ってもなお、目の前のスティグマは他人ではない。
“ーーランディ。私の屋敷へおいで。お前は、私の大事な家族だ。”
頭に蘇る出会いの言葉。
優しさに溢れたその声に、踏み出すはずの足は一歩も動かない。
ランディは柄を握ることが出来なかった。
『ガァァァッ!!』
肩に深く食い込むゴードルフの爪。
囚われた体は、もう身動きすら取れない。
首筋に走る鈍い痛み。
顔を歪めたが、もはや抵抗する気力もなかった。
全身から血の気が引いていく。
加減を知らないスティグマの牙が、ランディの肌へと食い込んだ。
「…旦那……さ、ま……」
遠のく意識の中、うわ言のように言葉が漏れる。
ーーやがて視界が光を失って、頭が真っ白に飛びそうになった
次の瞬間だった。



