ヴァンパイア夜曲



「旦那、様……!」


ぽつり、と彼の名を呼ぶが、返事はない。

ただ、獲物を捉えたような深紅の瞳が、欲をあらわに真っ直ぐこちらを見つめていた。


ゴードルフは、呼吸と同時に勢いよく飛びかかる。

陸へと上がった彼を避けるように、ランディは素早く水路を走る。

スピードを上げるランディだが、純血のヴァンパイアの身体能力は格が違う。

獲物を捕まえんとする鋭い爪が腕をかすめた。


「っ、くっ…!!」


一瞬、痛みに怯むが、足を止めたら終わりだ。

とにかく今は、ダンピールのハンデをカバー出来るような足場の良い場所まで移動しなくてはならない。

しかし、水路の先に目をやると、そこはもう市街地への出口だった。このまま走り続ければ、住民たちに危害が及びかねない。


胸元から出した魔法陣の紙を、背後に向かって投げつける。

バチッ!という閃光とともに、背後から迫る足音が止まった。

素早く後ろを振り返ると、地下水路に張られた魔法陣の上で膝をつくゴードルフの姿が見える。

ボタボタ…!と彼の足元に血が落ちた。


「……そのまま大人しくしてくれ、旦那様。動いて血が減れば、もう戻れなくなる…!」


『……グ…ガ……ァァァ…ッ!!』


「自我まで失ったか……!」