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「……遅ぇ……」
午後10時、宿屋。
約束の時間から10分経つごとにレイシアの部屋の窓を見つめるが、一向に明かりがつく気配がない。
(…あいつ、まさか本当に朝まで戻ってこないつもりじゃねえだろうな…)
別れ際に見た彼女の怒ったような顔が頭に浮かぶ。
可憐な見た目に反し、頑固な性格だ。反発心から意地になってわざと帰らない可能性だってゼロではない。
テレビをつけてみたり本を読んでみたりしたもののレイシアの顔がちらついてイマイチ集中出来ないシド。
ベッドに入って布団を被ったにもかかわらず、ばさり!とすぐに体を起こして髪をかきあげる。
「あぁ、くそ!落ち着かねえ…!!あの銀髪軟派執事、まさか手ぇ出してんじゃねえだろうな…!」
…と、その時。
ふと、街中が騒がしいことに気がついた。
眉を寄せたシドは、ベッドから出て窓を開ける。
「うるせえな…。なんだ…?祭りか…?」
しかし、その目に映ったのは笑顔ではしゃぐ住民ではない。
夜闇に紛れて光るのは、自我を失った赤い瞳。血を求めて彷徨うその姿は、グリムリーパーが狩るべきスティグマだった。
その瞬間。シドの脳裏をよぎったのは、2時間前に窓から見えた、宿を出て行く“彼女の背中”。
「くそ!あのバカ…!」
低く舌打ちをしたシドは、ばさりとコートを羽織るや否や、部屋の鍵を握りしめ、勢いよく窓から飛び降りたのだった。



