「アルジーン!!」
ランディはとっさに青年に駆け寄る。
肩を抱くようにしゃがみ込み、早口で彼に声をかけた。
「どうした?一体、何があったんだ!」
苦痛で顔を歪めたアルジーンは、絶え絶えになった呼吸で言葉を紡ぐ。
「……俺は、いい…!はやく…、……父上が…部屋の、奥に……!」
ばっ!と立ち上がるランディ。
嫌な胸騒ぎとともに執務室へと続く部屋の扉を開けた瞬間、呼吸が止まった。
ーー破られた窓からビュウゥと吹き込む冷たい夜風。そこから覗く、不気味なほど綺麗な満月。
そして、ゆらりと立ち上がってこちらを見る“ゴードルフ”は、もはや私たちの知る旦那様ではなかった。
首元から胸にかけて血で染まった白いシャツ。荒い呼吸をする彼の瞳は、深紅に染まって揺れている。
(まさか……!)
震えが走った瞬間、ゴードルフは頭を抱えて、苦しむようにうめき声をあげる。
『……私から、離れろ……、ランディ……!!』
わずかに残った彼の理性は、一瞬で消え失せた。
まるで私たちを遠ざけるように、ゴードルフは割れた窓から外の闇夜へと消えていく。
「旦那様!!」
思わず窓に駆け寄ったランディであったが、ゴードルフの姿はすでにない。



