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ーーヒュォォッ…
ついに、約束の時となった。
言われた通り屋敷の裏手に回ると、黒い小さな門の鍵が開いている。
結局ついて来なかったシドの背中を思い浮かべながらも、私はこっそり庭園へと忍び込んだ。
丁寧に整えられた芝生を踏んで歩くとやがてレンガの道が現れ、その脇には綺麗な花が咲いている。手入れが行き届いた庭は、まるで花園だった。
するとその時。
茂みの向こうに小さなベンチがあるのが見えた。
月明かりに照らされて腰掛ける“彼”を見た瞬間、つい、息が止まる。
綺麗な銀髪に、すらりとした身体。きっちりとした燕尾服を少し着崩した彼は、紛れもなくランディであった。
しかし、その瞳はよく見た“翠色”ではない。
「本当に来てくれたんだね、レイシアちゃん」
向こうは私に気づき、立ち上がった。
にこりと微笑んだ彼は、私が動揺している理由を察したらしい。
「あぁ、“これ”?ヴァンパイアの力が強くなる満月の夜はいつもこの姿になるんだ。僕はヴァンパイアと人間の間に生まれた“ダンピール”だからね」
ーー彼の目は、深紅の色に染まっていた。
それはまるで、ヴァンパイアの瞳そのもの。
妖しげな月の光に反射する“赤”が、彼の異質さを浮き彫りにしていた。



