バカですか発言に、一気に殺し屋のような眼光になった彼。

冷ややかで威圧するような碧眼に怯みそうになるが、彼を離しまいと力を込めた腕を解く気は無い。


「体が完全に治るまでは、大人しくここで寝ていてください…!倒れた貴方を私が見つけたのも、きっと神のお導きです!」


もしも私がわずかに香る血の匂いに気づかなかったら。雪の中に埋もれる体に気づかなかったら。きっと彼は死んでいた。

私があの瞬間に雪道を通っていたことこそが運命なのだ。


「神?…くだらねえ…」


しかし次の瞬間、青年の、さも馬鹿馬鹿しい、といった低い声に思考が停止した。


「そんなもんこの世にいるわけねえだろ。都合の悪くなった時だけ神頼みして実態のないものにすがるなんて、俺はそんな生き方御免だ」


私の中の何かが切れた。

なんだ、この男。

やっと口を開いたと思ったら、神を冒涜する暴言をさらりと言い放つ。

介抱した恩を返せとまでは言わないが、ふつう、礼くらいは言うべきだろう。貴方は大量出血と凍傷で、昨夜まで死にかけていたんですよ?と叫んでやりたい。

そもそも、窓から逃走しようとするなんて素行が悪すぎる。この男、とんだ不良だ。


(無駄に顔がいいのが腹が立つ)