ヴァンパイア夜曲



今さら、何を言いだすんだ、この人は。


「そんなの、決まってるわ。お嫁に行く私を送り出すために……」


「あはは、まさか。こんな王の器も、男としての覚悟も持ち合わせていない“お子様”に、可愛い妹をやるわけないだろ?」


爆弾発言に凍りつく私とタンリオット。

騒めく会場。

ランディとエリザ、そしてセオドルフ王だけが、全てを知っていたように佇んでいる。


「そ、それって、どういう……!」


私が焦って兄を見上げた

その時だった。


突然、勢いよく式場の扉が蹴破られた。

はっ!として振り返ると、そこに見えたのは真っ黒なスーツ。

乱れた黒シャツに、見慣れた青いクロスタイ。

場内の全ての視線を集めた彼に、呼吸が止まった。


「……シ、ド……?!」


ツカツカと歩み寄る彼。

距離が近づくたびに鼓動が早まる。

これは幻か。

休む余裕もなく駆けてきたらしい彼に、ぽつりと言葉が溢れる。


「…なん、で、ここに…」


次の瞬間、シドはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「お前をさらいに来た」


呼吸が止まると同時に、彼の甘く不敵な声が式場に響く。


「逃げるぞレイシア!」