ヴァンパイア夜曲


当たり前のようにさらり、と告げられた言葉。

すっ、と差し出された手に、はっ!とする。


「さ、そろそろ入場だ。…おいで」


きゅっ…、と絡める腕。

わずかに目を細めたルヴァーノは、流れるように私をエスコートする。


ーーギィ…!


城の兵によって開かれる扉。

式場には赤い絨毯が敷かれていて、椅子には参列者が並んでいる。

思ったよりも人が多く、ほとんどが知らない顔だ。私を見つめ、にこりと微笑むエリザ。どうやら、傷はだいぶ治ったらしい。

ほっ、と息を吐くと、最前列に並ぶランディが見えた。

ーーその隣には、“一つの空席”。

招待されていたはずの人物は、すぐにわかった。


(…シド、来なかったんだ)


兄からシドが意識を取り戻したと聞いた時、無意識に涙が溢れた。

それは心からの安堵。二度と会えないとしても、どこかで生きていてくれたら、それだけで十分だ。

もう、シドはグリムリーパーのホームに帰ったのだろうか。

薔薇の廃城の任務も終え、私のお守りからも解放され、自由の身となった彼は、もうこの地に未練もないようだ。

挨拶もなしにいなくなるなんて、シドらしい。

むしろ、他の人のお嫁さんになる姿を見られなくてよかった。

きっと、泣いちゃうから。