ぴくん!と震えた彼は、ゆっくりと私へ視線を下ろした。
戸惑いに揺れる瞳が私を映す。
鳴り続けるオルゴール。
私は、まっすぐローガスを見つめる。
「この曲は夜曲。…恋人へ送る愛の歌…」
目を見開くローガス。
彼から目を逸らさない私は、まっすぐ言い放った。
「スティグマに堕ちても自我を失わない貴方なら、忘れたりしないはずよ…!貴方の隣に、誰がいたのか…!」
ガッ!と、強く胸ぐらを掴まれた。
息が止まる。
私と同じように苦しそうな顔をしたローガス。純血の私を殺そうとする腕とは裏腹に、彼は涙を流したままで、何も言わずに私を見つめている。
「出来るものなら噛みつけばいいわ…!十年前と同じように…!!」
『!!』
“ローガスさま”
遡る記憶。
凍えるほど寒い雪の夜、ローガスは蘇った。
ローガスの名を呼び、血を与える女がいた。
痛いとも言わず、やめろとも言わず。ただじっと、ローガスの牙を受け入れていた。
その声も、味も、ローガスは知っていた。
消えゆく彼女の命の温度に、あの時、過去も名前も忘れたはずのローガスは泣いていたのだ。
『……ティ、アナ……』



