ヴァンパイア夜曲



ーーギィ…


同時に扉を押し開くと、そこは大理石の敷き詰められた玉座の間だった。

ぽつんと置かれた椅子。その隣には何もない。

小さなオルゴールを手にした青年だけが、そこにいた。


♪〜♫♩♪〜♬〜♪♩♪……


ぷつりと途切れる音色。

玉座に足を踏み入れると、ルヴァーノがグレーの瞳を細めて口を開いた。


「その曲。どこか聞き覚えがある。賛美歌か?……それとも、誰かの鎮魂歌か?」


紫紺のローブがなびく。

ローガスは、雪のような真っ白な髪の間から深紅の瞳を覗かせた。


『歌ってやった記憶があるんだ。…隣に誰がいたのかも覚えていないがな』


椅子に小さなオルゴールを胸にしまい、ふっとこちらを見る男。

シワひとつない綺麗な肌。血の通っていないほど青白いその顔は作り物のようで、50年前も同じ姿だったとは思えない。

無言でこちらを見つめるローガスに、ルヴァーノは小さく呟く。


「スティグマに堕ちる前の記憶はないんだったな。…まぁいい。お前がどんな境遇だろうと、俺の中から10年前の惨劇は消えない。それだけで十分だ」


ガラリとルヴァーノの纏うオーラが一変した。深紅に染まったヴァンパイアの瞳が、憎悪と殺気を剥き出しにする。

どうやら、彼はオトナになりきれないらしい。激情家の彼は、こうなっては誰にも止められない。

わずかに目を細めたローガスにシドは小さく口を開いた。


「俺は過去の私怨はないが、お前に武器を向けさせてもらう。スティグマをあの世に連れて行くことが、俺の任務だからな」


『…君は、天の使いなのか?』


「そう見えたなら残念だな。あいにく、輪っかをつけて笑顔で飛ぶような性分じゃねえんだ」


黒く光る銃口が、まっすぐローガスに突きつけられる。

獲物を捕らえた碧眼が鋭く細められた。


「悪いが、俺は死神だ。腹ん中まで真っ黒のな」